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広島簡易裁判所 昭和46年(ろ)199号 判決 1973年10月26日

主文

被告人広島魚粕工業株式会社を罰金三〇、〇〇〇円に

同石岡を罰金二〇、〇〇〇円に各処する。

被告人石岡において右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人広島魚粕工業株式会社は、広島草津東一丁目三番二二号において、化製場として広島県知事の許可を受け、魚の臓器等を原料とし、養鶏飼料等を製造販売しているもの、被告人石岡は、右会社の代表取締役で同社の業務全般を掌理しているものであるが、被告人石岡は同社の役員蘭雅雄外三名と共謀のうえ、右会社の業務に関し、広島市西保健所長が発した昭和四四年一二月二日付措置命令(同社化製場の構造設備の改善および管理者の講ずべき措置を命じたもの)に対し、なんらの措置も講じなかつたため、昭和四五年七月二日付をもつて右保健所長から同化製場の使用禁止命令が発せられたのに、その後も引続き操業し、右化製場を不正に使用したものである。

(証拠の標目)省略

(法令の適用)

へい獣処理場等に関する法律第七条第一項、第一〇条第二号、第一二条。

昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法第二条。刑法第六条。

刑法第六〇条、第一八条(被告人石岡に対し)。

刑事訴訟第一八一条第一項本文、第一八二条。

(弁護人および被告人らの主張に対する判断)

被告人らおよび弁護人の主張の要旨は広島市西保健所長が昭和四四年一二月二日付の措置命令(被告会社化製場の構造設備の改善および管理者の講すべき措置を命じたもの)を発したが被告人らはへい獣処理場等に関する法律(以下「法」という)第四条に基づく政令(同法施行令)の基準を守つているものであり、この基準以上の設備を設ける等の措置をすべきことを命ずるものであること、および措置命令に従い措置をとれば多額の費用を要し、企業採算上困難であること等により違法かつ不当なもので無効であるというにある。

ところで前掲証拠によれば本件では被告会社はへい獣処理場等に関する法律第八条第三条第一項により化製場設置について昭和四一年四月一日広島知事の許可を受け主として魚類の残しを原料として養鶏飼料等を製造販売しているものであるが、その後住宅が建ち並び密集したうえ構造設備特に脱臭装置の不十分なために、その製造の過程において強度の不快感(人にいやな感じ、食事がまずい、頭痛、頭重、来客がいやがる、気分がいらいらする、はき気をもよおす等の障害を与え)を伴う多量の悪臭を放ち気象条件の如何によつては右工場を中心とする周辺約一粁四方におよび、ために付近住民生活環境自体が極度に汚染したため広島市西保健所においては同社に対し五一回にわたつて具体的な行政指導を実施したが、被告会社は何ら改善の措置をとらなかつたので本件措置命令はこれらの臭気発生源に対し講ずべき措置を命じたものとみることができる。

そこで、まず化製場の管理者が法第五条第三号の措置を講じないため法第六条の二により、右管理者に対し措置命令を発する場合、法第四条に基づく政令(施行令)の定める基準以上の新たな設備を設ける等の措置を講ずるように命ずることが出来るかどうかについて検討する。

もともと法第四条およびこれにもとづく施行令は、許可の基準を定めたもので、許可後においても少なくとも許可の基準は保持すべきであるとして、いわゆる最低基準を定めたに過ぎないものであり、一方法第五条は、許可を受けたへい獣処理場の管理者が講じなければならない措置を規定したものであつて、同条第三号が「臭気の処理を十分にすること」と定めているのは、許可を受けた際の基準さえ守つていればそれで足りるという趣旨ではなく、許可を受けた営業を営むにあたつての義務を明確にしたものと解すべきであり、したがつて付近住民に対する臭気の影響等具体的な立地条件によつて、許可を受けた際での基準では、とうてい不十分である場合には、それ以上の構造設備を設けてでも臭気の処理を十分に行なうべきことまで規定しているのである。

されば、へい獣処理場の管理者としては、許可を受けた後であつても、法第五条を遵守するためには許可を受けた際の構造設備では不十分であるならば、その構造設備を改善し、あるいは別個の設備を設け臭気の処理を十分に行なわざるを得ない場合もありうるものと考えられる。

したがつて前述の事情からして広島市西保健所は、法第五条第三号に規定する臭気の処理を十分にさせるため、やむを得ず措置命令を出したものと認めることができるし、その内容は改善ないし新設を命ずるものであるとしても、その趣旨は、広島市西保健所長において、処理場の実態に照してみて、管理者である被告人に対して、その立場上とるべき措置として最も適当な内容を抽象的ではなく、具体的、例示的、例示的に親切にわかり易く指導したもので、その趣旨はあくまで管理者である被告人に臭気の処理を十分にするよう措置を講ずることを命ずるものであつて、他の方法によつて法第五条の措置を講ずることを認めない趣旨であるとは解せられないのであつて、被告人において命令の趣旨に沿い、たとえ燃焼方式の装置を備えつけなくても、また内容が措置命令に示されたところと違つた方法をとつても臭気の処理を十分に行なう措置を講じなければよいという柔軟な内容のものであつて、適法有効であり、内容が違法なもので無効であるとの主張は採用しない。

次に、本措置命令に従い措置をとれば多額な費用を要し企業採算上困難なものであると主張するが、前掲証拠を綜合すると、必ずしも被告人が主張するように大規模の事業体を前提としたように多額の費用を要するものとは思料されず、したがつて措置命令が被告会社の企業の実態を無視した不当なものということもできない。

よつて主文のとおり判決する。

(福原麓)

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